第1回ニューロスクエア 2023年3月4日開催
- RIKEN CBS主催 第1回 ニューロスクエア 脳とこころのライブトーク 総集編
- Hakwan Lau
- “無意識的な想像-Unconscious imaginations”
- 林(高木) 朗子
- “神経細胞の民主主義が壊れるとき”
- 豊泉 太郎
- “人の知能とコンピュータが融合する未来—そのカギをにぎる? 脳のゆらぎ”
- 影山龍一郎
- “老化する脳を若返らせる —神経幹細胞の活性化と記憶力回復”
Q: 研究者のみなさん、プレゼンがとても上手で驚きました。研究者として研究を発信するということを昨今では強く意識されているのでしょうか?
A: 大きなイベントでは特にそうですが、聴衆に貴重な時間をより有意義に使ってもらえるよう意識しています。プレゼンで的を絞っることは重要だと思っています。
Q: シナプスの強さのゆらぎはどのような仕組みで生まれるのでしょうか?
コンピュータにてゆらぎを人工的に取り入れ、AIがひらめくようにするにはどのような技術が必要なのでしょうか?
A: アクチン分子などの変化によるものと考えています。またゆらぎの大きさには細胞外基質なども関与していると考えられています。
ひらめくAIが作れると良いですね。今後の研究課題です。
Q: 正確性にゆらぎは必要? ゆらぎの調節は可能?
A: ゆらぎは単一シナプスの強さを変化させてしまいますが、学習込みの場合にはシナプス集団の統計的性質を安定化させる効果もありそうです。従って、何に関する「正確性」かによって回答は変わってきます。疾患モデルでゆらぎの異常がみられることから、ゆらぎは調節されていると考えています。
Q: 人は、脳のゆらぎを感じ取れるのか?
集中している時とボーっとしている時の変化ことをゆらぎという?”
A: シナプスは神経活動に影響を与え、ある種の神経活動が知覚となりますので、シナプス集団のゆらぎを感じ取れる状況もあるのではないかと思います。われわれは神経活動に関係なく起こるシナプス変化のことをゆらぎと呼んでいます。集中している時もボーっとしている時も神経は活動していますので、程度の差はありますが、ゆらぎと学習の両方でシナプスは変化していると思います。
Q: 野球でのイップスだったり、私がピアノ練習で何回か経験したことがある、慣れているはずのフレーズがいきなり弾けなくなる現象は、今まで“心理的なものに起因する”と説明がとどまっている感じだったのですが、そういったものもシナプスのゆらぎと関連づけて説明できるものでしょうか?
A: そのような現象が起こっている期間の長さから考えると、神経活動の問題というよりはシナプスの影響なのかもしれません。
ゆらぎが原因となっている可能性はあると思います。しかし、何らかの意図しない学習によって該当記憶が上書きされたといったほかの可能性もあるように思いました。”
Q: AIが睡眠によって学習効果が上がるという研究決果が最近発表されましたが、「ゆらぎ」との関連はあるのでしょうか?
A: AIの学習効果を上げるオフライン学習(行動していないときの学習)メカニズムは複数提案されています。過去の記憶をリプレイして再学習したり、類似パターンを生成して学習したりということが提案されています。脳のシナプスゆらぎの体積依存性などを取り入れているAI研究は少ないように思います。
Q: 「ゆらぎ」のお話が興味深かったです。宮沢賢治が生徒と共に“ボーッとする時間”を大切にしていたというお話しを思い出しました。
A: そうですね、散歩会議をする会社もあるようですし、アイディアは机に向かっている時以外に降ってくることもあるようです。宮沢賢治の脳状態を再現する秘訣が分かると良いですね!
Q: ゆらぎというのはいわゆる“乱数”のような、その程度の大小は何かにしたがっているわけではないのでしょうか?
それともゆらぎにも根幹には一定の法則があると予想されているのでしょうか?
A: ゆらぎの根幹には一定の法則があると思います。理想気体のモデルのように、ミクロには一定の法則に従っていても集団として乱数的な振る舞いをすることはしばしばあります。
Q: シナプスのゆらぎ=神経伝達物質量の変化でしょうか?
A: 明確に示されていないと思いますが、シナプスの体積変化に起因するグルタミン酸受容体数の変化の影響だと考えています。
Q: 「ゆらぎ」の話が興味深かった。(シナプスは学習時にのみ発火すると思っていたので)シナプス個々の反応だけではなく全体の反応をみる必要があるため、分子生物的なアプローチと理論的な(物理に近い)アプローチの両方が脳の解明には必要だろうと思う。
A: ありがとうございます。理論的なアプローチの持つ可能性をお伝えできて良かったです。
Q: 「ゆらぎ」が起こっている時の人間の状態はどうなの?
A: 通常の状態では基本的にシナプスゆらぎは常に起こっていると考えています。
Q: 脳のゆらぎは一人ひとり違うのか?=個性?
発達障害での脳のゆらぎには、一定のゆらぎの法則?があるのか?
A: 野生型マウスと疾患モデルマウスを比較してシナプスゆらぎが異なっていることを報告した研究があります。シナプスゆらぎの分子機構の違いで人間の個性の多くが説明できる可能性は低いと私は考えますが、学習とゆらぎの効果を統合したシナプス変化は個性を反映している可能性が高いと思います。
Q: 動物の脳にはなぜ“ゆらぎ”というシステムがある? 学習のため? ひらめきのため?
A: タンパク質によって構成される生体システムでは一定のゆらぎを許容せざるを得ないのだと思います。しかし、脳はそれを学習に(もしかしたらひらめきにも)うまく活用しているのではないかと考えています。
Q: 強い記憶を保持するためであれば、強いシナプスを安定させた方が生存競争に強くなるように思えるが、強いシナプスを不安定にすることで得られる利点は何なのか?
A: 確かにそういう考え方はできます。だた、われわれの理論は強いシナプスを安定化させる機構の存在を否定していません。安定化には時間やコストを伴うという可能性もあります。これまでの実験結果から類推すると、強いけれど安定化していないシナプスは数多く存在していそうです。
Q: シナプスのゆらぎを制御することで学習障害の治療を行うことができるようになる?
A: 今後の研究の進展を待たねばなりませんが、そうなったら素晴らしいと思います。
マウス実験では過剰なシナプスゆらぎを抑える薬剤の例が示されています。
Q: ロボットが人の脳のようなことができるようになるには、あとどれぐらいかかる?
A: 難しい質問です。現在のChatGPTなどもさまざまな側面で人のような(知識の広さなどに関しては人以上の)応答をしますね。感情的に振る舞ったりプログラムを書き換えるようなロボットを作るかどうかは慎重に考える必要がありそうです。倫理的問題も含めて全盛期と冬の時代を繰り返しながら階段状に発展していくのではないかと予想しています。
Q: ゆらぎによるシナプスの変化ではじめは大きいものも、やがて小さくなるものもあるし、あまり小さくなるものもあるが、なぜか?
A: 単純なモデルでは時々刻々乱数を生成して(サイコロを振って)大きくしたり小さくしたりしているので、たまにはあまり小さくならないシナプスも存在します。実際のシナプスは配置や組成などに応じてもう少し複雑に振る舞うのかも知れません。
Q: 人工的に脳を作り、コンピュータのように使うことは可能?
またその場合、その脳の得意な分野と苦手な分野はどうなりますか?
A: ヒト幹細胞を利用して作る脳オルガノイドは発展途上ですが重要な研究テーマです。将来、コンピューターのように使うことも可能になると予想します。機械と比べた時の長所はエネルギー効率が良いこと・拡張したり再生すること・脳と接続する際の親和性が高いこと、短所は計算精度・速度・記憶容量などで劣ることが予想されます。
Q: 脳でのシナプス強さのゆらぎをコンピューター上で再現しようとする場合、量子コンピューターの計算方法を利用することはできる?
A: 可能かもしれません。量子コンピューターの活用は今後の重要な課題だと思います。
Q: 同じニューロンが複数の種類の記憶をメモっているとすると、記憶を取出す際にはニューロンのグループはどう接続されるのか?
A: あちらを立てればこちらが立たず(あるニューロンが活動すると特定の記憶パターンに近づくけれど他の記憶パターンからは離れてしまう)という状況はあります。連想記憶モデルでは与えられたヒントに「近い」記憶パターンに向けてニューロンの活動が変化していきます。沢山のパターンを記憶しすぎるとうまく想起できませんが、記憶容量の範囲内であれば想起が可能です。
Q: 研究者のみなさん、プレゼンがとても上手で驚きました。研究者として研究を発信するということを昨今では強く意識されているのでしょうか?
A: ありがとうございます。
確かに、最近では研究費提供機関や政府機関が、自分たちの研究成果を積極的に広く一般に伝えることを推奨しています。私自身も、このような活動を楽しんでおり、意味のあるものと感じています。少しでも一般のみなさまの興味を引くことができれば、ジャーナリストに頼ることなく、私たち自身が知見を共有することができます。それが科学者を志す学生たちにとっても魅力的に感じるきっかけとなれば、個人的にはより大きなやりがいを感じます。
Q: 何を考えているかをfMRIで可視化できるの?
A: はい、日本で行われた研究を紹介します。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.11.18.517004v2
Q: 言語は多量の単語を含みます。クモの信号が存在するなら、1言語10000~50000語全ての概念が1分おきに(無意識下)で思い出されているのでしょうか?
もしくは関連する概念が同時に思い起こされているのでしょうか?
A: 素晴らしい質問ですね。
実際、一部の研究者は、単語や意味概念の信号をすべてマッピングしようと試みています。私の実験のクモの信号のように、これらの信号は時間とともにゆっくりと変動します。そして、その変動はほとんど無意識のうちに起こります。こちら論文がそのことを詳しく説明しています。
https://www.nature.com/articles/nature17637
Q: 無意識的なイメージと意識的なイメージでは、脳が活動する位置が違うの?
アファンタジアは軽度の人と重度の人がいたりするの?
なにをもって無意識とする?
A: 素晴らしい質問ですね。
無意識のイメージを行う際、人は意識的イメージと同じ視覚領域を使用しています。その活動パターンには微妙な違いがあるかもしれませんが、その違いは主に前頭前野と呼ばれる高次の認知領域にある可能性があります。一般的に「無意識」とは主観的な生き生きとした経験がないことを意味しています。実際、アファンタジアにはさまざまな程度があります。
Q: 私は多分アファンタジアだと思います。ただこれまでの人生で自覚も困った心当たりもありません。むしろほかの人より先行きを見通したり、想像するのに先んじていると感じることが多いです。
A: そういう可能性もあります。実際、多くのアファンタジアな人々は視覚的な課題を行うのに問題がないことがあります。何らかの理由で、彼らはほかの(おそらく無意識的な)戦略を使うことができ、結果的にうまくいくことがあります。私たちの研究室で、その戦略がどのようにほかと異なるのか、どのような利点や欠点があるのかを理解しようとしています。
Q: 研究者のみなさん、プレゼンがとても上手で驚きました。研究者として研究を発信するということを昨今では強く意識されているのでしょうか?
A: 最近の研究は、芸術家としての側面(何かを見出し作り出す)+敏腕の営業としての側面(その商品の良さをアピールし、高く買ってもらう)の双方ができないと花開かないことが多いですね。「頑張っていれば、いつか誰かが見出してくれる!」というような白馬の王子様を待つ時代は終わり、自分で勝ち取っていかないといけません。そのうえで、プレゼンとライティングはマストスキルです。
Q: 実際に脳科学の基礎研究が医療に活きた分かりやすい例はあるのですか?(例えばセロトニン仮説→うつ病の治療とか?)
A: 例えば世界初の抗精神病薬であるクロルプロマジンは偶然の産物としての発見です。しかし、クロルプロマジンがなぜ精神症状に奏功するのかということを薬理的に検証した結果、統合失調症ではドーパミンシグナルの大きな変容があることがわかりました(ドーパミン仮説)。その結果、ドーパミン受容体の理解が進み、より良い抗精神病薬の開発に成功しました。ドーパミン仮説だけでは統合失調症の全容を解明できるわけではないので、まだまだ研究は道半ばですが、それでも大きな前進です。同様のことが抗うつ薬にも当てはまります。世界初の抗うつ薬であるイミプラミンは抗うつ薬として開発されたわけではありません。しかし、たまたまうつ病患者に使用したら強い抗うつ効果があったのです。この分子薬理的メカニズムを解明したところ、抗うつ効果のカギは、モノアミン系であることが分かりました。そしてモノアミンを制御するさまざまな抗うつ薬が開発されました。このように、現象を丁寧に観察し、そのメカニズムを因果関係を持ったエビデンスとして積み上げることで、科学は進んでいきます。
Q: 異なる個体のマウスでも同じ場所にニューロンかシナプスができるのですか?
そうでないとしたらどうやって個体間の比較をするのでしょうか?
A: 同じニューロンや同じ場所をどのように定義するかが科学の腕の見せ所です。例えば、大脳皮質のFrA部分、そのII/III層にある錐体細胞のTuft部の樹状突起などというように、脳の中の座標や細胞の種類、樹状突起の部位が明確に定義できます。同じ定義の構造物を比較すれば、異なる個体間でも妥当な比較が可能と考えます。
Q: 癌の個別化医療と同じように、統合失調症も患者の遺伝子から適切な治療法を割り出していくことを目指すのでしょうか? また、そのためには統合失調症の原因遺伝子ごとに治療法を一つずつ開発していけば良いのでしょうか?
A: 単一の原因(遺伝子など)で説明できてしまう疾患、例えば、ハンチントン病のHtt遺伝子や、先天的な酵素異常にまつわる疾患ならば、そのような考えで正しいと思います。一方で、精神疾患の多くは多因子であり、環境因もあり、発症形式や病態生理は複雑です。原因因子があまりにも多すぎて、原因遺伝子ごとに治療法を開発するのはあまりに大変です(というか不可能です)。そこで、もう少し大きな括りでの理解が重要で、患者さまの層別化は非常に重要です。そのためには、ゲノム情報、脳画像情報、臨床情報などを統合してサブタイプを定義することが重要です。そのサブタイプごとに治療法を確立していけばよいと考えています。
Q: 一口に“統合失調症”といっても、患者個々でさまざまな対応が必要というお話をされていましたが、そうなると基礎研究やそれについての実験で得られた成果はどうとらえ、どのように応用すべきと考えられていますか?
A: モデル動物でも実際の患者さまでも、まずは層別化することが重要です。層別化というのは、疾患のなかでも病態が比較的均一な個人同士をサブタイプとして分け、その各々をしっかりと定義することです。しっかりと定義して、そこで何が実際に生じているのかを解明することは基礎研究の得意とすることです。そのうえで得られた知識を実際のヒト研究へ外挿し、その真偽を検証していくことで真実に近づけると考えています。
Q: 巨大スパインが独裁を行うことによって、脳がぐちゃぐちゃになり病気になるということか?
A: トーク内でお話ししたように大脳皮質の錐体細胞の機能は、多くのシナプス入力を受け取って、その結果、発火するかしないかを決めることです。一つひとつの錐体細胞が民主的な意思決定機関なのです。民主的というのは、神経回路の総意を汲むと例えることもできます。ところが巨大シナプスがあると、そのシナプスからの入力があまりに強く、総意とは無関係に、発火するという意思決定が行われます。そうなると神経回路は大きな混乱をきたすことが想定されますし、実際に計測してみても、そのようなことが起こっていることは間違いがなさそうです。
Q: “一般のマウス(人?)にも巨大スパインはある”というお話があったと思うのですが、この作用を私たちが日常のなかで感じることはありますか(できますか)?
また、巨大スパインをコントロールする技術は、どのような物が考えられますか?
A: 巨大スパインを私たちの日常で感じることは恐らくないと思いますし、それがあったとしても現在の技術では証明することは不可能です(最先端のfMRIでもミリ単位の解像でしか脳機能を見ることが出来ません。一方、シナプスはミリの1/1000であるマイクロという単位です)。巨大スパインの操作する方法はマウスでは可能です。巨大スパインにスパイン収縮光プローブを発現させればいいのです。一方、ヒトではそのような技術はありませんし、またもし可能になったとしても、そのような手法をヒトに実装するためには、倫理的な妥当性をクリアする必要があります。
Q: 林先生、とても面白いライブトークをありがとうございました!
私も医師をしていて、先生と同じように将来は基礎研究を行っていきたいと考えています。先生の場合、臨床から基礎研究にシフトチェンジするにあたり、どのような決意をしたのか、働く場を見つけたのか、できる範囲でくわしくおしえて下さると大変参考になります。
A: まずは大学院に入り、実際の研究というものに触れてみましょう。それを貴方がどのように感じるかです。
私の場合、http://multi-scale_psychiatry.riken.jp/message202203.html に記載しているのでご参考にされてください。Good luck!
Q: 研究者のみなさん、プレゼンがとても上手で驚きました。研究者として研究を発信するということを昨今では強く意識されているのでしょうか?
A: 研究内容をできるだけわかりやすく伝えることは非常に重要で、いつも心掛けています。
Q: そもそもなぜ老化を進めるDNAがあるのか?
A: 大部分の神経細胞は一生涯活動しますが、加齢とともに徐々にダメージが蓄積します。老化を進める遺伝子というよりは、ダメージを修復したり、修復できないときは除去したりという、若いときには不要だった遺伝子が加齢とともに働く必要が生じていると考えられます。
Q: 神経幹細胞の活性化ということだが、もと(神経幹細胞)が少なくなることはあるのか?
A: 神経幹細胞は活性化するとニューロンを生み出し、最後はアストロサイトに分化します。したがって、神経幹細胞の数は徐々に減ります。ただ、最後まで使われない神経幹細胞が多く存在しますので、それらの有効活用を目指しています。
Q: 若者にiPaDを注入するとどうなるか?
記憶力増し増しになるのか?
どこかで(記憶力の)限界が来るのか?
A: マウスの実験では若い時期にiPaDを注入してもあまり効果は見られません。ただし、若年性アルツハイマー病のような疾患に対しては、若い時にも効果があるのではないかと思います。
Q: iPadでも改善しなかった脳の老化現象はありますか?
新生ニューロンの不足だけが老化をひきおこしているのでしょうか……。
A: iPaDで改善できるのは海馬・歯状回や側脳室からのニューロン新生のみです。ニューロン新生が起こっていない大部分の脳の老化は改善できません。
Q: 眠っている神経幹細胞を起こす具体的なもの(食べものや運動など)はありますか?
A: マウスの実験では、好きなこと(走ること)を自由にできる環境だと神経幹細胞が活性化し、ニューロン新生が活発に起こります。ヒトでは明確に示した実験はありませんが、同様のことが推察されています。
食物の在処を記憶させるマウスの実験では、満腹時より空腹時の方が成績が良いと言われています。やはり、必要に迫られると良く覚えるようです。
Q: 神経細胞が増えれば増えるだけ脳機能は上がるのか? 増やすことのデメリットは?
A: 老化だけでなく、うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)でもニューロン新生は低下しますが、ニューロン新生を復活させると良くなると言われています。さらに増やすとどうなるのかはわかっていません。
Q: ウイルスベクターを利用して遺伝子を導入したと説明していたが、Dyrk1aをノックアウトしたマウスを作出することは可能?
A: Dyrk1aは重要な遺伝子なのでノックアウトすると胎生致死になります。ヘテロ変異体の場合は、小頭症になると言われています。
Q: iPaDはおそらく老化した神経幹細胞に対するアフターケアになると思いますが、大人になった時の神経幹細胞の活性化を良くするために、事前に(若いときとか)あるいはリアルタイムでなにかできることはある?
A: マウスの実験からは、リッチ(外からの刺激が多いなど)な環境が神経幹細胞の活性化に良いということが知られています。この結果をヒトに当てはめるのは難しいですが、色々なことを経験することが神経幹細胞の活性化に大事なのではないかと類推しています。
Q: バーンズ迷路試験にて、“覚えている”というのは比較による相対評価で結果を割り出していますか? それとも統一した指標を設けて考察しているのでしょうか?
A: 標的の穴に到達するまでに何回間違えたか、どれくらい時間がかかったか、どれくらいの距離を歩いたかを測定しています。1日2回練習させますが、日毎にどの程度これらの指標が改善するのかも測定しています。これらのスコアから記憶力を判定しています。
Q: iPaDの遺伝子導入により、脳細胞のがん化を来す可能性はある?
A: 病理所見であるアミロイドβやTauはiPadの導入により変化はある?” 高齢マウスの実験ではがん化は見られません。アミロイドβやTauに対するiPaDの効果は現在調べているところです。
Q: 神経幹細胞を活発にさせる事はできるが、細胞の数は増やせるのか?
A: 高齢マウスの実験では、iPaDによって幼弱なニューロンの数がかなり増えています。
Q: iPaDはいつごろ頃手に入る? 早くして!
A: マーモセットで効果が確認できれば、ようやくヒトへの応用を試みることになります。まだ、10年くらいはかかるのではないかと思います。
Q: iPaDをマーモセットに導入することで、マウスと比べどのような知見が得られる?
A: マウスの結果は必ずしもヒトには当てはまらないことが多いです。したがって、ヒトにより近い動物(マーモセットのような霊長類)を使ってマウスの時と同じ結果が得られるかどうか確認することが重要です。
Q: iPaDの運動神経への応用はどうですか?
A: 大人の脳に残っている神経幹細胞からは運動神経はできないので、現時点で応用は難しいです。
Q: マウスと人とは認知機能低下のメカニズムに違いがある。例えば、アルツハイマー病の場合、アミロイド斑等が増加することで“可塑性”が失われることが原因だと考えられていた。人に適用する場合、新生ニューロンが増加しても、(病気によっては)課題もあると思います。そのあたりの研究はどの程度進んでいるのでしょうか?
A: アルツハイマー病モデルのマウスやマーモセットが開発されていますので、これからiPaDによってニューロン新生を増やした時にどのような効果があるのかを調べる予定です。
Q: 若年性も含め認知症になりやすい人の特徴や傾向などはある?
A: 家族性アルツハイマー病に関しては、特定の遺伝子の異常によることが知られています。それ以外の大部分のアルツハイマー病や認知症の原因に関してはよくわかっていません。ただ、アポE遺伝子には4種類知られていますが、このうちの一つ(ε4)を持っている方はアルツハイマー病発症リスクが高いと言われています。
Q: iPaDで活性化した場合の効果時間はどれくらい? 学習したことや記憶の定着はどうですか?
A: マウスでは少なくとも3カ月間は効果が続いています。記憶の定着も良くなっているようです。
Q: 側脳室と海馬の活発な神経幹細胞でよく発現している遺伝子は一緒ですか?
A: 休眠状態、活性化状態、ニューロン分化に関わる遺伝子は両方の部位で共通です。しかし、側脳室周辺部と海馬とでは異なる種類のニューロンが生まれますので、異なる遺伝子も発現しています。
Q: 神経幹細胞の活性化によって老化抑制が起きるときに、シナプスの接続ミスや接続のしにくさは老化個体で依然として起きる?
A: 老齢と若齢とでシナプスの接続ミスや接続のしにくさに違いがあるかどうかは分かりません。iPaDで高齢マウスの認知機能は改善していますが、若齢マウスと同程度までは回復していないようです。